藝苑千禧

art garden millennium

『長津湖』

映画『長津湖』を見ました。日本未公開。

陳凱歌(チェン・カイコー)、徐克(ツイ・ハーク)、林超賢(ダンテ・ラムの大御所3人が共同監督として制作。「中国勝利三部曲」(「中国医生」「長津湖」「無名」)の一つです。

『長津湖』(英題:The Battle at Lake Changjin)は朝鮮戦争での中米の「長津湖の戦い」の激戦を描いたもの。
2021年公開。2カ月足らずで57億元(1016億円)という中国映画史上最高額の興行成績を収めた。全編オールロケで、撮影チームは7000人、エキストラは7万人、制作会社の一つが中国人民解放軍の八一制片廠であることから、2000人規模の兵士も出演に加わり、製作費は13億元(232億円)という超ド級のスケールの作品。
(以上、「人民中国」サイトの情報による)

映画の内容ってより、どんだけの規模の映画なんだかって情報ですね。そりゃもう一目瞭然ですよ。ものすごーくお金がかかってるなぁーってわかる。
ド級
まさにその一言だと思う。いろんな意味で。なんでお金をかけているかは理由があるわけで、そこに関してはここでは一切触れない。触れたら何も書けなくなるし、そう言った理由で中国のエンタメを遠ざける姿勢は却ってよくないと私は思っているからです。この思いはもちろん中国側の政治的な思惑に賛成しているということではない。

私がこの作品を見る動機はたった一つ、易烊千璽が出てるからです。
そもそも戦争映画に興味はないし、人が大勢目の前で死ぬ画面はシンドくて見たくない。しかも、国策映画らしい煽り文句の強さにも腰が引けてしまうわけで。
これ、私が見てもいいやつなんだろうか?千璽のこと嫌いになったりせんよね?などと不安になりつつ…でも、見たい。千璽の演技をどうしても見たい!
ということで、意を決してふたを開けてみました。

いやー圧倒的に戦争映画でした!(ホント、その一言に尽きる)

3時間近くただひたすら戦闘シーンが続き、目の前で延々と人が死んでゆく。
非常累了…。
ん?でも、これって…国威発揚になりますかね。どう見ても反戦映画みたいなんだけども。
世界的巨匠である映画監督たちが雁首揃えて単なるプロパガンダ作品を作るとは思えませんし、いろんな解釈が入る余地があるのでしょうが、わりとバランスの取れた(映像的スケールはドでかいけれども)ごく標準的な戦争映画だったように思います。狂信的なイデオロギーに染まっているわけでもないし、必要以上に国連軍側を憎んだ書き方もしていない。ごくフラットな姿勢で、血の通った人間が向き合う戦争の悲惨さがきちんと描かれている作品でした。
上映禁止の国が多い作品ですが、映画の内容というよりも、そもそもの作品の位置づけや扱い(プロモーション)の問題なのだと思います。国が寄せる思惑が敬遠される理由だし、まぁ当然でしょうね。

この映画に対して私が言えることはそう多くは無いです。日本で公開もされていないものをわざわざ漁って見てるのだから、何か言う立場にもない。明らかに中国の、中国による、中国国民のための映画なんですからね。外側から何やかや言われるのは、逆の立場で考えても嫌なものでしょう。
なので、エンタメ的切り口でだけ、出演者に関しての印象などを書いておきます。

期待の千璽はまた一つ違う顔を見せてくれました!
相変わらず全力投球の素晴らしい演技。
無学で無鉄砲でヤンチャな末っ子という、今までにないキャラです。表情だけでなく、体の動きがちゃんと計算されてて、まだ子どもである万里の収まり切らないパワフルな様子をよく表現してました。
もう、この演技を見られただけで十分。
でもこの映画、大ベテランの俳優がずらーーっと出演しているのよ。で、やっぱり彼らはめちゃくちゃ演技が上手い!こんなドンパチ映画でもその巧さは際立っている。なので、千璽は、役柄どおり、本当に「皆の掌の上で自由に動かせてもらってる」って印象でした。比べるとやはり未熟が目立つというか。今回はその「ひよっこ」な感じが役柄に合っていたから効果抜群でしたが。きっと本人、この現場はすごく勉強になったと思うわ。

*****

ざっと登場人物の紹介を。

主人公的位置にあるのが七連の連長:伍千里(呉京/ウー・ジン

呉京は中国映画界で一番の稼ぎ頭なんだそうです。大人気映画『戦狼』シリーズの主演&監督をやって、爆発的な興行収益を上げてます。このシリーズも愛国モノのように持ち上げられてるようですが、アクション映画好きの人たち曰く、娯楽として単純に面白いとのこと。

その弟の伍万里(易烊千璽/イー・ヤンチェンシー)

千里と万里というと「…海原?」と思っちゃいますが違います(あたりまえ)。
この兄弟を軸に話が進みます。
二人の上に百里という長兄がいて、この長兄は戦死しました。冒頭、千里がその遺骨を持って故郷に帰るシーンから始まります。
兄弟の家はものすごく貧しい水上生活者です。

あまりの貧しさゆえか両親ともに老いが早い。19歳の息子がいるとは思えない母親の老化に苦労の程が偲ばれます。
末っ子の万里はここでヤンチャに育ってます。千璽が子どもらしい動きで万里のヤンチャぶりをうまく表現してる。石投げが天才的に巧いのですが、その才能は後日、手榴弾を投げる際に発揮されます。

やっと帰ってきたと思った兄がすぐまた軍隊へ行くというのを聞いた万里は、内緒で家を飛び出して兄の後にくっついて志願兵となります。「子どもだからってバカにすんなよ」の勢いで。
この「軍隊」は、正規の人民解放軍ではなく、義勇兵の集まりでできた「人民志願軍」です。だから、ちょっと規律も緩く、仲間意識も強い。すったもんだの挙げ句、飛び入り参加の万里も無事に兵士の一人として迎え入れられます。

最初はやたら威勢が良くて、「やったるぜー!」って感じ。イケイケの無鉄砲キャラ全開です。
でも、戦場の本当の恐ろしさを体験し、目の前で戦友を失った後は、万里の表情から笑みは消え、真剣に状況に向き合う兵士の顔になってゆきます。
浅はかでモノを知らなかった子どもが、現実を目の当たりにして様々なことを学んでゆく成長譚でもある。

七連の炮排長:雷公(胡軍/フー・ジュン

この映画は何といっても胡軍!めちゃくちゃ良かった。
一人の老兵の生き様を、実に細かくリアルに、ものすごくイイ味を出しながら演じていた。とぼけたおっさんなんだけど、皆の精神的支柱になっているような存在なのよ。
胡軍一人がそこにいるだけで、画面がビシッとキマる。

七連の指導員:梅生(朱亜文/チュー・ヤーウェン)

上海からお洒落なトランクを下げてやってきた、インテリでスマートな兵士。娘の写真を大事に持ってる良きパパでもある。朱亜文のイメージによく合ってる役でした。戦闘シーンでの迫真の演技には思わず目を覆った。

七連の狙撃手:平河(韓東君/エルビス・ハン)

狙撃の名手。なので敵から最も狙われやすいけれど、銃撃戦の中を見事に立ち回っておりました。戦いを終えるごとに胸に下げた薬莢に「平」の文字を刻んでいる。

毛沢東の長男:毛岸英(黄軒/ホアン・シュエン)

「多くの百姓の子どもたちが戦闘に参加するのに、なぜ私が行ってはいけないのか」と父に談判し、偽名を使って参加していましたが、国連軍の空爆で命を落としてしまいます。
黄軒、育ちのいいお坊ちゃんっぽい雰囲気あるので、納得の配役。巷間に取りざたされている「史実(チャーハンを炒めていて爆撃された)」とは若干違う扱いですが、まぁホントの史実はよくわかっていないらしいので、汚名返上的な効果を狙ってこういう設定にしたのかも?

*****

いろいろ、ポスターなども豊富に出ているので貼っておこう。
過剰っぷりが、なにやらプロパガンダみたいだけど、ただ単に千璽鑑賞会です。

 

主要キャスト7人揃い踏み。

 

こっちは6人。あれ?誰が消えているのだ?段奕宏(ドアン・イーホン)でした…。

 

6人+3人の監督バージョン。

 

千里万里。

 

氷雪の進軍。

 

千璽のイメージポスター。

 

ところで下の画像。ここに書いてある「最可愛的人」って文言に、なんか違和感があったんですよね。

 

「一番カワイイ人」?そりゃ千璽は可愛いけども…
って、あれれ!これ↓↓見たら全員「最可愛的人」になっとる!

おっさんつかまえてカワイイって…なにこれ?
しかも、この映画の主題歌も「最可愛的人」って曲なのよ。意味わかんない。

あまりに気になったので調べてみたら、「最可愛的人」というのは、1950年の「抗美援朝(対アメリカ、朝鮮支援)」の時の中国人民志願兵の”愛称”なのだそうです。
なるほど!そういうことでしたか。納得。

零下30度でジャガイモを齧る(そして歯が欠けちゃう)「最可愛的人」。そう、この人がやっぱり私の最可愛的人。

今年の春節に『長津湖之水門橋/長津湖2』が公開されました。続編ですね。
こちらの感想も後日書きます。

予告編(香港版)


www.youtube.com

追記:『1950 鋼の第7中隊』の邦題で、9月30日より東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国で順次公開決定しました!

続編の『長津湖之水門橋』感想はこちら。続編は日本公開あるのかな?続編があって完結する映画なんだけどなぁ(つまり、続編とセットでないと意味がない)。

yiyuanqianxi.net